硬質クロムめっきの耐食性(防錆効果)

硬質クロムめっきの耐食性(防錆効果)

硬質クロムめっき処理を施す効果の1つに耐食性(防錆効果)があります。

下記の写真は㈱遠州クロムの展示用として作成した看板ですが、
作成して5年以上経過した現在でも硬質クロムめっき処理を施した箇所から錆が発生していないことが確認できます。



硬質クロムめっきの表面は酸化被膜に覆われており、
空気中(大気中)において不働態化しています。
クロム被膜は金やプラチナなどの貴金属に匹敵する自然電位を有しており、
自然環境化において安定した性質を持ちます。
同様にアルカリ性にも安定しますが、
非酸化性の酸性質と接すると表面の不働態被膜は容易に溶解し、
クロムそのものも溶解することにより必然的に耐食性が保てなくなります。

クロムが安定を示す薬品・物質には水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫化水素、炭酸ガス、アンモニアガス、ピクリン酸、サリチル酸、ギ酸、ステアリン酸、タンニン酸、砂糖、植物・果実、加熱水蒸気、発泡酒(ビール)、石鹸、ゴム、ビニル樹脂、尿素樹脂、インク、石油、牛乳・ミルク、紙パルプ等です。

一方、クロムを侵食する薬品には塩酸、稀硫酸、硫酸銅、フッ酸、リン酸、塩化カルシウム、硫酸アルミニウム、クエン酸、シュウ酸、乳酸、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化亜鉛、塩化すず等があります。
※めっき工程においてクロムめっき被膜を剥離する際はこの性質を用いて塩酸などに浸漬し、クロムめっき被膜を除去します。

上記のようにクロムめっき自体が酸化する場合は薬品等で故意に行わない限り発生することは稀であり、
一般的に謳われる硬質クロムめっきの耐食性である被めっき物(素材)表面から発生する錆とは別の要因です。

時折、クロムめっきが錆びたとの話を耳にすることがあります。
上記のとおり硬質クロムめっき被膜自体の酸化は自然環境化での使用において侵食することはほぼありません。
誤解されるケースが多いですが、
これは硬質クロム被膜層のマイクロクラックがあみだくじのように被めっき物(素材)表面まで達して(通じて)おり、
めっき表面のマイクロクラックから大気中の水素、自然環境化における水・雨水・結露が侵入し被めっき物表面に接触することで、
クロムめっき被膜と被めっき物の間に局部電池が形成され、鉄素地である場合、鉄が溶解し電子を供給するため、
被めっき物(素材)表面が錆び、
侵入とは逆にマイクロクラックを辿りクロムめっき表面に析出するからです。

膜厚が薄いほど上記の発生する可能性は高く、
膜厚が厚くなるほどマイクロクラックが素地まで達する可能性、
また距離が長くなるため耐食性が向上します。
これが一般的に言われる硬質クロムめっきの耐食性です。

しかし50~100μmの膜厚を生成させてもマイクロクラックを素地まで到達させないことは難しく、
耐食性を重点に置く場合は通常とは違う工法で処理を行う必要があります。

当社では下地にニッケルめっき(無電解・電気)を行う方法、
特殊なくクロムめっき処理を行い、めっき被膜層を上段下段に分けることによりマイクロクラックずらす方法、
めっき後にバフ仕上げをしてバフの油分をクラックに浸透させ、
バフを当てたことによる塑性変形で蓋をする方法が可能です。

耐食性評価には塩水噴霧試験、キャス試験が一般的に用いられ、
JIS Z 2371 塩水噴霧試験方法によって評価されます。

簡単にまとめると、
錆やすい物質の表面に自然環境条件下では錆びない(腐食しない)クロムめっき被膜でコーティングすることで中の物質表面を守り酸化を防ぐことができるのが硬質クロムめっきの耐食性(防錆効果)です。