無電解ニッケルめっき処理後のベーキングの目的

無電解ニッケルめっき処理後のベーキングの目的

めっき処理後の工程としてベーキング処理(熱処理)を施す場合があります。

電気めっきにおいてJISでも記載されているようにベーキング処理の有無やその条件は両社間で取り決めるとなっておりますが、
その製品の使用方法や設定寿命を考慮した上で必要か否か、
またどの条件が適しているのかを選定する必要があり、
必ずしも行わなければならないわけではありません。

上記のように硬質クロムめっきなどの電気めっきにおいては水素脆性除去を目的としたベーキング処理が一般的となっておりますが、
めっき処理時に電気を使用しない無電解ニッケルめっきでもベーキング処理を行う場合があります。

その基本的な目的は以下のとおりです。
目的によって温度・時間などの条件が異なります。


1.表面硬度の上昇
無電解ニッケルめっき(中リンタイプ)処理後の表面硬度は450HV~550HV程度ですが、
300~400℃で1時間以上の熱処理を行った場合で850HV≦の表面硬度を得られ、
また条件によっては950HV≦とすることも可能です。
これは硬質クロムめっきの硬度に匹敵する硬さです。
デメリットとしてはめっき表面が酸化することにより変色、被膜変形、それに伴いクラックが発生し、耐食性が低下するなどの影響があります。
この影響はベーキング処理温度300℃≦から発生しますが、
表面硬化もほぼ同温度から上昇し始めるため硬度を目的としたベーキングを行う以上は致し方ありません。
一部、特殊なベーキング炉(真空炉)での処理を行えば変色を起こさずに硬度上昇を行えるとの内容を目にしたことがありますが、
機能性めっき(外観重視でない)製品であればその機能を満たすことが出来るため特に気にする必要はありません。
ベーキングにより表面硬度が上昇する理由として、
無電解ニッケルめっき処理でニッケルとリンの非結晶合金として析出しためっき被膜がベーキング処理によって結晶化することで硬度を高めます。




2.密着性向上
材質やワーク表面の状態にも大きく左右されますが、
無電解ニッケルめっき処理のみの状態と200~300℃で1時間程度のベーキング処理を施した場合では密着性に大きな差があります。



3.水素脆性除去
 前述のとおり、電気めっきにおいてはその処理中に水素が発生することが良く知られていますが、
電気を使用しない無電解ニッケルめっきでも水素脆性による遅れ破壊を引き起こす要因となることが危惧されます。
その理由として一つは直流電気の代わりに使われる還元剤の酸化により、
水素が発生するためと考えられ、
もう一つは前処理での陽極電解時に水素を発生させて表面の脱脂を行うため、
そこで発生した水素が残留すると考えられています。